臨床以外で視能訓練士の転職先の一つとして「放課後等デイサービス」があります。
放課後等デイサービスとは、
障がいのある子どもを対象に自立支援を行う通所の福祉サービス
で、近年全国的に増加しています。
現在放課後等デイサービスで実際に勤務している作業療法士のAさんにお話を伺いながら、放課後等デイサービスの仕事内容や収入、どんな人に適性があるのかなど詳しく解説します。
作業療法士Aさん
まだあまり馴染みのない業種ですが、現場の生の声も併せて紹介していきます
放課後等デイサービスとは?

放課後等デイサービスとは、障がいや発達に特性のある6歳から18歳までの就学児童を対象とした、通所の福祉サービスです。
その名前の通り、放課後や休日、夏休み・冬休みなどの長期休暇に利用でき、子どもたちの生活能力向上の訓練や社会との交流活動などを行ないます。
「児童発達支援」も同じ障がい児を対象とした通所サービスですが、
- 児童発達支援は小学校にあがる前の未就学児
- 放課後等デイサービスは小学校から高校生
を対象としています。
作業療法士Aさん
当施設のスタッフの内訳※は
・看護師
・社会福祉士
・保育士
・臨床心理士
・作業療法士
・教員免許保有者です
Aさん
当施設では看護師がいるので医療対応が必要な児童も受け入れ可能です。
中学生になると受験に向けて学習支援もするので、教員免許も有用ですね。
※在籍スタッフの内訳は、施設によっても異なる
放課後デイサービスの仕事内容

子どもへの支援
放課後等デイサービスの対象年齢は幅広く、障がいや発達の特性もさまざまです。
一人一人に合った個別の支援計画に基づいて、療育プログラムや必要なサポートを行ないます。
主な業務
- 基本的な日常動作や自立生活を支援する活動
- 子どもが課題に取り組む際のサポート
- 集団遊びのまとめ役
- 学習指導
- 施設外活動(地域行事や社会科見学)の計画・実施
作業療法士Aさん
ASDとADHDなど、複数の発達障害が重なり合っている児童も多いです
一人一人に合わせた柔軟な対応が求められます
保護者への支援
子どもだけでなく、保護者に対する支援も放課後等デイサービスにおける重要な役割の一つです。
保護者が障がいや発達特性との向き合い方に対して悩みを抱え込まないよう、信頼関係を築いて配慮する必要があります。
具体的には、以下のような支援内容が挙げられます。
保護者への主な支援
- 子どもの支援・活動内容の報告
- 子育てや発達に関する相談を受け付ける
- 過程で活かせる親子トレーニングの支援
- 子どもを預かり保護者の時間や心のゆとりを確保する
学校や自宅への送迎
放課後等デイサービスでは、子どもの学校や自宅への送迎をスタッフが行なう施設が多いです。
平日は下校時間に学校まで迎えに行き、支援が終わった後は自宅まで送り届けます。
また、休日は自宅から施設へ送迎します。
そのため、求人の歓迎条件として普通自動車免許を挙げている施設が多いです。
その他の業務
子どもと保護者の関わり以外にも、以下のような業務があります。(施設により異なる)
主なその他の業務
- 「実績記録票」や「サービス提供記録」の作成※
- 支援記録の作成
- 保護者との面談
- スタッフ同士の打ち合わせや話し合い
- 施設の清掃
- 療育に必要な教材の準備
- 教室の清掃・設備点検
- 給食の調理
※報酬算定の根拠やサービス実施の証拠となる
放課後デイサービスの年収

厚生労働省の「平成29年障害福祉サービス等経営実態調査結果」によると、平成28年度の放課後等デイサービス職員(※視能訓練士の場合、機能訓練担当職員に該当)の平均年収は約265万円と報告されています。
しかし、実際に視能訓練士を募集している放課後等デイサービスの求人を見てみると、以下のような施設もありました。
実際の求人
放デイ施設A | 年収例: 350~450万円 |
放デイ施設B | 年収例: 390万円 |
視能訓練士 | 年収例: 300~600万円 (平均430万円) 中央値: 300~400万円 (最も人数が多い) |
放課後等デイサービスの年収は、施設によっても異なります。
転職する際は年収や福利厚生などの条件もしっかりと確認しましょう。
放課後デイサービスに転職するメリット・デメリット

メリット
臨床では経験ができない多くのことを学べる
放課後等デイサービスでは、さまざまな障がいや発達特性を持った子どもと深く関わり、支援を行ないます。
一人一人に合わせてアプローチするには、障がいや発達に関する知識はもちろん、保育や臨床心理など広範囲にわたる知識が必要です。
臨床では得られない、療育に関する知識や経験は、視能訓練士+αのスキルとして将来のキャリアアップにも役立つでしょう。
作業療法士Aさん
この子にはどんなアプローチをしようかと考えることが楽しく、やりがいを感じます
視能訓練士としての知識を療育分野で活かせる
視能訓練士としての専門知識を療育分野で活かせることは、大きなメリットです。
障がいや発達特性を持った子どもは、眼球運動や視空間認知など視覚機能に困難があるケースも多いです。
日常生活、特に学習においては視覚機能を多く使うため、以下のようなことが生じます。
視覚機能に関わる問題例
- 黒板の字をうまくノートに写せず、時間がかかる
- 教科書を読む際に、字や行を飛ばして読んでしまう
- 屈折異常により視界がぼやけるため、疲れやすく集中力が続かない
上記は適切な屈折矯正やビジョントレーニングなど、視覚環境を整えることで改善が期待できます。
デメリット
求人数が限られている
放課後等デイサービスの視能訓練士は、病院・クリニックと比べるとまだ求人数は限られています。
しかし、放課後等デイサービスのニーズは高く全国的に施設数が増加しているため、今後視能訓練士の求人が増える可能性があります。
放課後デイサービスへの転職がおすすめな人

新しいことを勉強したい人
知的好奇心が強い人や、新しいことを勉強したい人は、楽しみながら多くのことを吸収できるでしょう。
視能訓練士の知識だけで自立支援を行なうことは難しいため、障がいや療育、場合によっては保育や診療心理分野など、幅広い分野について一から勉強する必要があります。
作業療法士Aさん
私は作業療法士ですが、放課後等デイサービス転職後に勉強し、保育士の資格を取得しました
現在は臨床心理士の分野も勉強中です
療育やビジョントレーニングに興味がある人
小児の発達障害や療育、ビジョントレーニングに興味がある人にとって、子どもたちと深く関わり継続的に支援を行なうことができる環境は、大きなやりがいを持って働けるでしょう。
臨床でも障がいや発達特性を持った小児と関わる機会はありますが、「眼科に所属している視能訓練士」としてできることは限られています。
柔軟な考えや対応ができる人
放課後等デイサービスでの業務は、柔軟な考えや発想の転換、対応ができる人は適性があります。
「治す」ことを目的とする臨床の感覚とは全く異なるため、幅広い年齢層、障がい、発達特性の子どもたちに対して、一人一人に合った支援を行う必要があります。
放課後デイサービスへの転職が向いていない人

放課後等デイサービスに向いていないのは以下のような人です。
- 臨床にやりがいを感じており、離れたくない人
- 小児や保護者とのコミュニケーションが得意ではない人
- 眼科以外の分野を学ぶ意欲がない人
視能訓練士資格を活かしての採用とはいえ、放課後等デイサービスの業務内容は臨床とは全く異なります。
一から新しく勉強すべきことが多く、ほぼ異業種への転職と考えた方が良いでしょう。
放課後等デイサービスへ転職する際の注意点

放課後等デイサービスの施設でやりがいのある仕事をしたければ、施設の方針を見極める必要があります。
作業療法士Aさん
”〇〇の資格を持った人に、〇〇のような仕事をしてほしい”と明確な考えを持った施設を選ぶようにして下さい
Aさん
資格保持者を雇用すると加算対象になるため、中には報酬加算(売上)のためだけに有資格者を募集している施設もあると聞きました。
そのような施設ではやりがいのある仕事はできない可能性があります。
まとめ
放課後等デイサービスの業務は医療を行なう臨床とは大きく異なり、発想の転換や他分野の勉強が必要です。
また、一人一人の子どもや保護者への支援を通して大きなやりがいを感じ、臨床では得られない多くの経験ができる仕事でもあります。
求人数も少ないため、放課後等デイサービスへの転職に興味があるなら、転職エージェントを活用しながら早めに行動しましょう。