看護師として働いていると、数多くの患者や医師、同僚の看護師などと接する機会があります。職場にもよりますが、医療現場での看護師に対するセクハラが頻発しているようです。
今回は、現役看護師の方、もしくは看護師経験者の方にアンケートを実施し、実際にあったセクハラ被害についてお聞きしました。誰からどういったセクハラを受けたのか、ランキング形式でご紹介。さらに対処法についても詳しく解説します。
現在、セクハラについてお悩みの方はご参考ください。
看護師へのセクハラ加害者
看護師へのセクハラ加害者をランキング形式で紹介します。
<1位:患者>
過半数以上の方が、患者からセクハラを受けたことがあると答えました。体に触れられる、不快な言葉を言われる、体を見せつけられるなど、セクハラの種類は様々です。
看護師は患者と接する機会が多いため、セクハラを受ける確率が高くなります。看護師は患者に対して優しく対応するのが基本です。
そのため、患者の中には何をしても許されると勘違いしてしまう方も出てきます。毅然とした態度で注意できるとよいのですが、なかなかそうもいかず、ストレスをため込む方が多いです
<2位:医師>
第2位となったのは、医師からのセクハラでした。医師は看護師よりも強い立場にいることが多いため、強く拒絶しにくいという意見もみられます。
必要以上に馴れ馴れしくされる、プライベートなことをしつこく聞かれるなど、パワハラを含む行為を受けた方も多いようです。
<3位:看護師>
3位にランクインしたのは、看護師でした。看護師からのセクハラを受けたことがあると回答した方のほとんどは男性です。
⼥性から男性へ向けてのセクハラは、近年少しずつ顕在化してきました。女性の中には、セクハラをしていることに気づかず、相⼿を不快にさせ続けている方もいます。
ご自身の行為は相手にどう受け止められているの、見つめ直してみることが大切です。
患者からのセクハラ被害
アンケート結果によると、お尻をはじめ、体の各所を触られるセクハラが多くみられます。こういったセクハラは件数が多いため、あきらめて我慢する看護師も多いようです。
体に不調を抱える患者に対して厳しくするのはためらわれるという方もいますが、セクハラは許されない行為です。自分が不快に感じたら、冷静に拒否しましょう。
また、結婚しているかどうかを聞かれる、身体的特徴のことをからかわれるなどの言動によるセクハラも後を絶たないようです。患者の中には、コミュニケーションのつもりでいやらしい言葉を投げかける方もいます。
こういった事態は、看護師側と患者側でセクハラの許容範囲が違うために起こります。相⼿が軽い気持ちで言ったとしても、不快に感じたら我慢する必要はありません。
ほかの看護師への被害を食い止めるためにも注意することが大切です。それで患者が逆上してきたら、同僚に助けを求めましょう。
クリニックのセクハラ相談室や自分の管理者など、しかるべきところに相談するのが大切です。ほかにも、暴行を受けかける、ものを投げつけられるなどの被害にあった看護師もいます。
こういったときは、毅然とした態度で臨み、人を呼びにいくようにしましょう。ただ、セクハラ被害があることを知りながら、まったく改善しようとしない病院があるのも事実です。
看護師が助けを求めても病院側が対応してくれないときは、転職して職場を変えることも視野に入れましょう。
医師・スタッフからのセクハラ被害
アンケートのコメントを参照すると、医師やスタッフからは言葉によるセクハラが多いように見受けられます。内容は様々で、いやらしい話をされた、体の特徴を指摘された、パートナーに関することを詮索されたなどです。
相手に対して、会話の内容が不快であることをしっかりと伝えましょう。自分ひとりで注意しにくい場合は、ほかのスタッフに助けを求めるのが⼤切です。
言葉のセクハラより件数は少ないものの、ボディータッチをともなうセクハラも存在します。体を触りなら関係を迫られた経験のある方もいるようです。
被害を受けたときは冷静に対処するとともに、今後セクハラが起きにくい環境をつくるように気をつけましょう。セクハラをしてくる医師やスタッフとはふたりきりにならず、⼀緒の部屋に入るときは、ドアを開けたままにするのがおすすめです。
メークや体型など、個⼈的なことを言われたという回答もありました。身だしなみの注意程度なら問題ありませんが、相⼿に不快感を与える言い回しや、度を超えたしつこさはセクハラになり得ます。
注意して改善されないようであれば、異動届を出して違う部署に行き、関わりをなくすのもひとつの方法です。移動する部署がない場合は、転職も検討したほうがよいでしょう。
これってセクハラ?と思ったら要チェック!セクハラの判断基準
セクハラは線引きが非常に難しく、加害者は「セクハラのつもりがなかった」という場合が少なくありません。また被害者も「これくらい我慢すべき?」と、セクハラかどうか判断に迷うケースもあります。
男女雇用機会均等法では、セクハラの定義として下記の3点があげられています。
・職場において労働者の意に反する性的な言動が行われること
・性的な言動の拒否・抵抗などによって解雇・降格・減給などの不利益が生じること
・性的な言動によって職場環境が悪化し、労働者が能力を発揮するうえで重大な悪影響ができること
これらの3つのいずれかに該当している場合は、セクハラと判断されます。しかし、被害者側が「意に反する」と感じる「性的な言動」は、被害者と加害者との関係などによって大きく左右されます。
同じ「やせてきれいになったね」という言葉であっても、日頃から仲が良くプライベートでもグループで出かけている相手と業務以外の話はほぼしない相手とでは、受け手が不快に感じるリスクは大きくことなるでしょう。
そのため、厚生労働省が発行した「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!」という冊子では、「労働者の意に反する性的な言動」と「就業環境を害される」にあたるかどうかは、労働者の主観を重視しつつも、客観性を持って判断する必要があるとされています。
ちなみに、身体的なセクハラについては、言葉によるセクハラよりもより厳しく判断される傾向にあります。
相談?転職?看護師がセクハラを受けた場合にすべきこととは
看護師がセクハラを受けた場合の対処法として、相談や転職などがあることは先にご紹介した通りです。ここでは主な対処法について詳しく紹介します。
(1)拒絶の意思を示す
患者や医師などのスタッフからセクハラを受けた際は「それはセクハラです」「やめてください」と拒絶の意思をはっきりと示しましょう。
なかにはちょっとした悪ふざけをしている感覚の人もいるので、毅然とした態度で嫌悪感や不快な気持ちを伝えないと、セクハラ被害が続いたり悪化したりしてしまいかねません。
言いにくい場合は、無視や我慢は被害が悪化するリスクがあるので、他の方法で対処しましょう。
(2)信頼できる周囲の人に相談する
人にばれないようにセクハラをしたり、患者と看護師といった力関係を利用したりするケースは少なくありません。加害者に拒絶の意思を伝えたくても、伝えられない場合もないのではないでしょうか。
特にキャリアが浅い・入職して間もない看護師の場合、一人で抱え込んでしまう人も多いと考えられます。その結果、ストレスが溜まりメンタルケアに影響を及ぼすリスクがあります。
もし、信頼できる同僚・ベテラン看護師・上司がいれば、思い切って相談してみるのをおすすめします。誰かに話を聞いてもらうことで心が軽くなり、次にすべきことが見えてくるかもしれません。
特に患者からのセクハラの場合、加害者の看護は必ず複数人で対応するといったように、現場でフォローしてもらえる可能性があり、効果的な方法です。
(3)上長や院長、セクハラ相談窓口に相談する
上長や院長、セクハラ相談窓口に相談することで、病院に対策を促すことができます。
病院は院内の問題に責任を持つべき立場にあり、安全配慮義務を果たすためにセクハラを防がなければいけません
そのため、上長や院長に相談することで、加害者を対象にセクハラ防止研修を実施する、患者にセクハラを禁じる同意書を書いてもらうといった厳しい対処につながる可能性があります。
また、上下関係を利用したセクハラの被害にあっている場合、さらに上の立場である上長・院長から注意してもらうことでおさまるケースも少なくありません。
もし、安全配慮義務に反してセクハラを防止できない場合、加害者だけではなく、病院にも慰謝料を請求できます。
上司や院長などがセクハラ加害者である場合などは、院内のセクハラ相談窓口に相談するのも方法のひとつです。先手を打って相談し実績を残すことで、「相手も同意していた」という加害者の反論を封じられます。
(4)被害がある場合は病院を受診する
メンタル面や身体面で被害を受けた場合は、病院の診察を受けて、診断書をもらいましょう。診断書は、セクハラによる心身の被害を証明できる重要な証拠です。
診断書があれば、上司などにも相談しやすく、異動などの対策を取ってもらえる可能性が上がります。
暴力などの身体的な被害がなくても、メンタル面で大きなダメージを受けた場合は、精神科や心療内科に相談してください。セクハラが原因で、うつ病などの精神障害を発症する場合もあります。
病院で相談することで、早期発見・早期治療につながります。また、セクハラが原因で精神障害が起きたと認定された場合は、労災の対象となり、保険金が支給されます。
(5)証拠を集めておく
録画や録音など、被害を直接示す証拠があれば、セクハラ被害が認められやすくなります。もし加害者と、密室または周囲から見えない場所で2人きりになる場面があれば、録画・録音をしましょう。
また、加害者とのメールやSNSでのやり取り、病院の診断書なども証拠になります。
録画・録音や証拠の確保が難しい場合は、日記・メモなどを残しておくと、主張を補強する材料になります。
(6)外部の相談窓口や弁護士に相談する
職場内で相談することに抵抗がある・院内でもみ消されそう・相談しても改善が見込めそうにないといった場合は、外部の相談窓口や弁護士への相談がおすすめです。
外部サービスであれば、相談内容やプライバシーは厳守されます。「相談したことが知られたらどうしよう」と不安にならずに、相談できます。
セクハラの証拠を集めなどの取るべき行動を教えてもらえたり、法的なアドバイスをくれたりと、実践的なサポートを受けられる点がメリットです。
(7)異動を申し出る
医師や上長からのセクハラ被害に合っている場合は、異動を申し出るのも方法のひとつです。関わりがなくなれば被害に合わなくなりますし、加害者のいない環境であれば安心して働けるはずです。
比較的軽いセクハラであれば、異動で解決する場合も少なくありません。
(8)転職する
まれにセクハラを黙認する、悪質な医療機関もあります。そういった勤務先では、勇気を出して相談しても協力を得られず、問題が解決しないかもしれません。
安全配慮義務を果たさない会社は、セクハラに限らず働き環境が良くない場合も多いので、転職するのも方法のひとつです。
看護師のニーズは非常に高く、退職したとしてもすぐに新しい転職先が見つかるケースが多いと考えられます。
給料が良い・勤務体系が自分に合っている・仕事にやりがいがあるなど、何らかの理由でその職場を離れたくない場合は、「セクハラが改善されなければ転職する」と伝えて交渉してみるのもよいでしょう。
医療機関の多くは人手不足です。看護師の退職をなるべく避けるため、対策を取ってくれるかもしれません。
(9)法的責任を追及する
悪質なセクハラ被害にあった場合は、法的責任の追及も検討しましょう。看護師のセクハラ被害の場合、加害者には民事責任と刑事責任の両方、病院には安全配慮義務・職場環境配慮義務について追及できます。
加害者への民事責任と病院の配慮義務への責任を追及する場合は、下記のような項目について、損害賠償を請求できます。
またセクハラの内容によっては、強制わいせつ罪などの犯罪になるケースもあります。
法的責任を追及する場合は、信頼できる弁護士に依頼しましょう。まずは加害者に内容証明を送付して交渉し、話し合いで解決しない場合は裁判などの法的手段を取ります。
実際にセクハラ被害にあった看護師が法的責任を追及した結果、医師や患者が損害賠償を命じられたり刑事罰に問われたりした事例も少なくありません。
まとめ
医療現場でのセクハラは多く、回答者の91%が過去にセクハラを受けたことがあると答えています。職場によってはセクハラに対して有効な対処をせず、問題を放置したままの職場もあります。
看護師が泣き寝入りすることのないよう、病院全体で意識改⾰していくことが必要です。セクハラを受けたら、ひとりで抱え込まず周囲に相談しましょう。
話しやすい同僚や先輩、上司など、信頼のおける方に話せば、きっと力になってくれます。自分自身でも気を強く持ち、毅然とした態度で立ち向かうことが⼤切です。
もし、職場のセクハラに耐えられない場合は、異動や転職をするのもひとつの方法です。セクハラ被害に我慢して勤め続けるよりは、新しい環境に身を置いたほうが、清々しい気持ちで働けるでしょう。
また、法的に責任を追及することも可能です。自分にとって一番良い方法を選びましょう。